
私が初めてこの本と出会ったのは、古書店の片隅でした。ページをめくった瞬間、精緻な手描きの地図に目を奪われ、そのまま立ち読みに没頭してしまいました。
昭和の記憶を丹念に描き込んだ絵図は、現代のGPSマップでは決して表現できない、土地の記憶と人々の暮らしを見事に映し出しています。川沿いの散歩道、土手の植物、昔ながらの堰、そして今では失われた風景まで、まるで博物館の展示品のような緻密さで描かれているのです。
特筆すべきは、50年以上前から現在に至るまでの多摩川の移り変わりが、一目で理解できる点です。かつての渡し場や水車小屋の位置、今では姿を消した河原の風景など、まさに「タイムカプセル」のような一冊です。
実際に本を片手に散策すると、著者の村松昭氏が丹精込めて描いた地図が、まるで優しい語り部のように私たちを導いてくれます。デジタルマップでは決して得られない「発見」と「感動」が、ページをめくるたびに待っているのです。
この本は単なる地図帳ではありません。多摩川と共に生きた人々の記憶を後世に伝える、かけがえのない文化遺産なのです。
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